
日本に在留する外国人や訪日客の増加により、医療現場で外国人患者に対応する機会が増えています。しかし、多くの医療施設では言語の壁が大きな課題となり、円滑なコミュニケーションが取れないことで、スタッフの負担が増えたり、医療ミスのリスクが高まったりしています。
このような課題を解決するため、医療施設における多言語対応の環境整備が急務です。適切な対策を講じることで、外国人患者に安全で質の高い医療を提供できます。
本記事では、医療施設で多言語対応が重要視される理由やメリット、具体的な導入方法について詳しく解説します。
医療施設における多言語対応の重要性

日本に在留する外国人や訪日外国人の増加に伴い、医療施設における多言語対応の重要性が高まっています。言葉の壁は外国人患者が安心して医療を受ける上での障壁となり、円滑なコミュニケーション環境の整備は急務です。適切な対応は、質の高い医療の提供に不可欠です。
外国人患者の推移
日本に在留する外国人数や訪日外国人観光客は増加しており、それに伴い医療施設で外国人患者に対応する場面が増えています。特に、外国人労働者が多く暮らす地域や、国際的な観光地の医療機関では、外国人患者の受け入れが日常的です。実際、医療機関の職員を対象とした調査では、多くの職員が外国人患者の対応機会が増加していると回答しています。
この流れは今後も続くと考えられ、外国人患者の受け入れは既に特別なことではなくなっています。そのため、あらゆる医療施設にとって、多言語対応は避けて通れない重要な経営課題の一つです。
外国人患者が多い医療施設の課題
外国人患者の受け入れが増える一方で、多くの医療施設が言語の壁という課題に直面しています。現場では「簡単な日本語を使う」といった対応が主流ですが、それだけでは十分な対応ができないのが現状です。
ある調査では、約4割の医療機関が十分な対応ができていないと感じており、「問診票の記載依頼が難しい」「患者の困りごとが分からない」といった悩みを抱えるケースも少なくありません。言語や制度の違いといった課題は、医療スタッフの心理的な負担を増大させ、結果として医療の質の低下や機会損失につながる可能性があります。
医療施設で多言語対応を進めるメリット
医療施設で多言語対応を進めることは、外国人患者が安心して医療を受けられる環境を整えるために重要です。円滑なコミュニケーションは、患者の満足度を高めるだけでなく、医療の質や安全性の向上など、施設側にも多くの利点をもたらします。
外国人患者へのサポートを充実させられる
多言語対応を整備することは、外国人患者が母国語で安心して医療を受けられる環境を作るための第一歩です。患者は自身の症状や既往歴、アレルギーの有無などを正確に伝えられるようになり、診断の精度向上につながります。
また、医師からの治療方針や薬の説明を正しく理解できるため、納得して治療に臨めるでしょう。言葉の壁による不安が解消されることで、患者満足度が大きく向上し、医療機関への信頼も高まります。これは、患者に質の高い医療を提供する、医療施設本来の役割を果たす上で重要です。
医療ミスを防止できる
言葉の壁は、患者のアレルギーや既往歴といった重要な医療情報が伝わらない原因の一つです。このようなコミュニケーション不足は、診断の誤りや不適切な処方など、重大な医療ミスを引き起こす原因となります。
多言語対応を進めることで、問診から診断、治療方針の説明まで、より正確な情報伝達が可能です。誤訳や解釈の違いによる医療過誤のリスクを減らし、医療の安全性を確保できます。専門的な医療用語を正確に伝えられる環境は、安全な医療を提供する上で不可欠です。
医療スタッフの負担を軽減できる
言葉が通じないことで、問診やヒアリングに通常より多くの時間がかかり、時間的な制約が生まれます。また、「症状を正確に理解できているか」「説明が正しく伝わっているか」といった不安は、医療スタッフにとって心理的ストレスとなります。
多言語対応の仕組みを導入すれば、このような時間的・心理的な負担を軽減できるでしょう。これにより、スタッフは本来の専門業務に集中でき、職場全体の業務効率向上にもつながります。
医療施設で多言語対応を進める方法
医療施設で多言語対応を進めるには、翻訳ツールの導入や専門の医療通訳サービスの活用、スタッフ教育など複数の方法があります。
例えば、受付での簡単な会話は翻訳機を使い、専門的な場面では通訳サービスを利用するなど、状況に応じた使い分けが安全で質の高い医療提供につながります。
通訳の専門部署を設置する
専門の医療通訳者を院内に配置することは、コミュニケーションをスムーズにするために非常に効果的な方法です。院内に専門部署を設けたり、多言語対応が可能なスタッフを採用・育成したりすることで、迅速な対応が可能になります。
しかし、人材の確保や教育コストが課題となる場合も少なくありません。そのため、必要なときだけ専門家のサポートを受けられる外部の遠隔医療通訳サービスを導入する医療機関も増えています。厚生労働省も医療安全の観点から専門の医療通訳の利用を推奨しており、その重要性は高いです。
医療スタッフの教育を実施する
翻訳ツールなどの導入と並行して、医療スタッフ自身の対応能力を高める教育も重要です。まず、一文を短くしたり、簡単な単語を使ったりする「やさしい日本語」を習得するだけでも、コミュニケーションの改善が期待できます。
さらに、患者の宗教や生活習慣といった文化的な背景への理解を深める研修も効果的です。例えば、イスラム教徒の礼拝への配慮など、具体的な事例を通して対応方法を学びます。このような教育を通じて、スタッフが異文化への理解を深めることは、より丁寧な医療の提供につながります。
資料・案内の多言語化を進める
院内の案内表示や問診票などを多言語で用意しておくことは、円滑な診療に向けた有効な手段です。特に、受付方法や院内施設といった基本的な情報を多言語で掲示するだけでも、患者の不安を和らげられます。
症状や既往歴を記入する問診票などをあらかじめ多言語化しておくことで、その後のコミュニケーションがスムーズになります。イラストや図を併記した「指さしコミュニケーションシート」も、口頭での説明を補うツールとして有効です。
翻訳システムを導入する
翻訳システムやアプリを導入することは、多言語対応を進める上で効果的な方法です。タブレットやスマートフォンで手軽に利用できるため、多くの医療機関で導入が進んでいます。システムを選ぶ際は、医療用語に正確に対応できる翻訳精度の高さが重要です。
簡単な会話はAI通訳で対応し、診断など重要な場面ではプロの通訳者による遠隔通訳に切り替えられるハイブリッド型のサービスも登場しています。これにより、場面に応じて正確なコミュニケーションが可能です。
医療現場でも多言語対応を進めよう!
医療現場での多言語対応は、もはや特別なことではなく、全ての患者に安全で質の高い医療を提供するための基盤です。言葉の壁を解消することは、医療の質と安全性を高めるだけでなく、患者満足度の向上やスタッフの負担軽減にもつながります。翻訳システムの導入や資料の多言語化など、自院の状況に合った方法で環境を整備することが重要です。
多言語対応の課題解決には、Web問診システムなどのITツールを活用することも有効です。株式会社SPは、医療分野でのシステム開発に豊富な経験があり、各医療機関の課題に合わせた解決策を提案しています。企画から開発、運用まで一貫してサポートしていますので、多言語対応でお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。