
スクラム開発では「ベロシティ」という指標を用いてプロジェクト管理を行いますが、その数値をどう扱えば良いか、悩む担当者は少なくありません。指標の解釈を誤ると、かえってチームの生産性を損なうことにもつながります。
そこで重要になるのが、ベロシティという指標を正しく理解し、計画のツールとして適切に活用することです。チームの現状を客観的に把握し、より現実的なプロジェクト計画を立てましょう。
本記事では、スクラム開発におけるベロシティの基本的な意味や役割、ベロシティを扱う際の具体的なポイントについて解説します。
スクラム開発におけるベロシティとは?
スクラム開発とは、アジャイル開発における代表的なフレームワークの一つです。プロダクトオーナーやスクラムマスター、開発者で構成されたチームで協力しながら開発を進めます。
スクラム開発では「スプリント」と呼ばれる1〜4週間の短い開発期間を繰り返し設定するのが特徴です。短いスプリントの中で「計画」「実行」「レビュー」「改善」というサイクルを回し続けることで、急な仕様変更にも柔軟に対応でき、より満足度の高い製品を作ることが可能です。
ベロシティは、1回のスプリントで開発チームが完了できた作業量を示す指標です。作業量は時間ではなく、「ストーリーポイント」という相対的な見積もり単位で計測されます。ストーリーポイントは、タスクの複雑さや作業量、不確実性などを総合的に判断して設定される数値です。
ベロシティを計測する主な目的は、チームの将来の作業量を予測することにあります。一般的には、過去3〜4回のスプリントで完了したストーリーポイントの平均値を算出します。算出された数値を参考にすることで、次のスプリントでどれくらいの作業量を計画できるか、より現実的な見通しを立てることが可能です。ベロシティは、あくまで計画の精度を高めるための予測値として活用されます。
スクラム開発におけるベロシティの役割
ベロシティは、スクラム開発におけるプロジェクト計画の精度を高めるために重要な役割を果たします。また、チームの状態を把握するための客観的なデータとしても活用可能です。以下で詳しく解説します。
スプリントの参考値として活用できる
ベロシティは、今後のスプリントでチームがどれくらいの作業量をこなせるかという参考値です。チームが無理なく作業を進めるためのガイドラインとして機能します。過去の実績に基づいたベロシティを活用することで、チームへの過度な作業負担を避け、現実的な作業量を計画できるでしょう。
完成時期を予測できる
ベロシティは、プロジェクト全体の完成時期を見積もる上でも役立ちます。プロジェクトで実装すべき機能の全体量は、ストーリーポイントで算出されます。この総量をチームの平均ベロシティで割ることで、プロジェクト完了までに必要なスプリント回数の予測が可能です。プロジェクトの現実的なスケジュールを把握できるようになるため、より適切なリリース計画を立てられます。
チームの状態を把握できる
ベロシティの数値を継続的に観察することで、チームの状態を客観的に把握できます。例えば、ベロシティが安定せずスプリントごとに大きく変動する場合は、チーム内で何らかの課題や障害が発生している可能性もあるでしょう。
ベロシティは、チームの健全性を測り改善点を見つけるための指標としても機能します。ベロシティの低下をきっかけに、開発プロセスにおけるブロッカー(障害物)を特定できると、チームの生産性の改善にもつながります。
ベロシティを扱うときのポイント

ベロシティは計画の精度を高める有効なツールですが、その数値を誤って解釈すると、かえってチームの生産性を損なう原因にもなります。ベロシティを正しく活用するために押さえておくべき、重要なポイントを紹介します。
直近のベロシティだけで判断しない
スプリント計画を立てる際、直近1回のベロシティだけで判断することは避けましょう。特にプロジェクトの初期段階では、見積もり精度が安定せず数値が大きく変動することがあります。信頼性の高い予測を行うには、複数回のスプリントを通してデータを蓄積しなくてはなりません。短期的な結果に一喜一憂せず、中長期的なデータの傾向を捉えることが重要です。安定した数値を参考にすることで、より現実的な計画を立てられます。
ベロシティを無理に上げようとしない
ベロシティの数値を目標に設定し、無理に向上させようとすることは避けましょう。数値を上げること自体が目的になると、チームは品質よりも量を優先するようになります。結果として、テストが不十分になったり、技術的な負債が蓄積したりする原因になりかねません。
また、チームに過度なプレッシャーを与え、疲弊させてしまうリスクもあります。ベロシティはあくまで予測のための指標であり、チームの生産性を上げるための道具ではないことを理解しましょう。
他のチームと比較しない
ベロシティの数値を他のチームと比較することは避けましょう。作業量を見積もる「ストーリーポイント」の基準は、チームごとに大きく異なるからです。あるチームの10ポイントと、別のチームの10ポイントが示す作業量は異なります。チームごとに基準が異なる相対的な指標を単純に比較すると、不健全な競争意識が生まれ、協力関係を損なうことにもなりかねません。ベロシティは、あくまでそのチーム内部でのみ意味を持つ指標だと理解することが大切です。
ベロシティのみでチームを評価しない
ベロシティは、チームのパフォーマンスを測る人事評価の指標ではないことに注意しましょう。ベロシティはあくまで将来を予測するためのツールであり、チームの生産性や能力を直接示す数値ではありません。
もしベロシティが評価に直結する場合、チームは評価を上げるため、ストーリーポイントの見積もりを意図的に操作する可能性があります。ベロシティはチーム管理の一要素と捉え、それだけで評価を決定しないようにしましょう。チームの評価は、開発したプロダクトの品質やチームワーク、課題解決への取り組みなど、総合的な観点から行うのがおすすめです。
スクラム開発ではベロシティを適切に管理しよう!
スクラム開発におけるベロシティは、1スプリントでチームが完了した作業量を示し、将来の計画を立てるために活用する重要な指標です。ベロシティを参考にすることで、次のスプリントで対応可能な作業量を予測し、プロジェクト全体のスケジュールを見通せます。ただし、チームの評価指標と誤解せず、あくまで計画のための参考値として正しく扱うことが重要です。
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