
調剤薬局DXでは、レセコン・電子薬歴・電子処方箋・在庫管理システムなどの活用が中心となります。導入にあたっては、業務の棚卸しからSaaS(クラウド型の業務システム)選定・連携設計・運用体制づくりへと段階的に進める方法がよく取られます。一方で、自社の規模や独自フローによっては既存SaaSだけでは対応しきれない領域があり、追加開発で補完するケースもあります。
本記事では、調剤薬局DXを進める際の代表的な流れと導入後の運用体制の考え方を整理した上で、既存システムでは対応が難しいケースについても紹介します。
調剤薬局で課題になりやすいこと
調剤薬局の業務は、処方入力・監査・薬歴記録・在庫管理・レセプト確認・服薬指導と多岐にわたり、それぞれに確認の手間がかかります。特に以下のような課題を抱えやすい構造があります。
業務負荷の集中と属人化
処方入力・監査・薬歴記録といった業務は、経験やノウハウを持つ特定の薬剤師に依存しやすく、担当者が変わると品質にばらつきが生じたり、引き継ぎに手間がかかったりするケースがあります。
患者対応に時間を使いにくい状況
服薬指導・フォローアップ・相談対応などの対人業務は薬剤師が担うべき重要な役割ですが、入力・確認・記録作業に時間が取られ、患者と向き合う時間を十分に確保できないケースも少なくありません。
システムの分断による二重作業
レセコン(レセプトコンピュータ)や電子薬歴、在庫管理システムなどをそれぞれ別々に管理している場合、データの転記や二重入力が発生しやすくなります。確認作業が増え、ミスのリスクも高まりやすいです。
複数拠点での情報共有の難しさ
複数店舗を運営している場合、拠点間での在庫共有・患者情報の連携・業務状況の把握が難しくなることがあります。本部での一元管理ができず、各店舗が個別に対応する状態が続くと、管理コストが大きくなりやすいです。
こうした課題の解消を目的に、SaaSの導入やシステム化を検討する薬局も見られます。
調剤薬局DXを進める際の代表的な流れ
調剤薬局DXでは、業務の棚卸しからシステム選定・導入・運用定着まで、段階を追って進めると取り組みやすくなります。各フェーズで押さえておきたいポイントを紹介します。
現状業務の棚卸しと優先領域の整理
DX化を始める前に、現在どの業務にどれだけの時間や手間がかかっているか・どこでミスや属人化が起きているかを整理することが重要です。処方入力・監査・薬歴記録・在庫管理・レセプト確認などの業務をリストアップし、それぞれのボリューム・課題・現在の対応方法を把握しておくことで、どの領域からシステム化するかの優先順位をつけやすくなります。
この棚卸しを正確に行うには、経営者や管理者だけの視点では不十分なケースがあります。実際に処方入力・監査・薬歴記録・在庫管理を担っている現場スタッフへのヒアリングを丁寧に行うことで、「何が一番時間がかかっているか」「どこでミスが起きやすいか」「薬剤師が患者対応に使えていない時間はどこか」といった実態が見えてきます。
現場のスタッフは、日々の業務の中で感じている非効率や課題を具体的に把握していることが多く、ヒアリングで得た情報が優先領域の判断に直結することもあります。優先領域が決まったら、その領域に合ったシステムを選び、既存の業務や他のシステムとどう繋ぐかを検討していきます。
導入するシステムの選定と組み合わせの検討
優先領域が絞れたら、その領域をカバーするシステムを選定します。
電子薬歴・AI監査・在庫管理・レセプト対応など、領域ごとに専用のシステムが存在しており、それぞれの機能・費用・サポート体制・他システムとの連携可否などを比較しながら検討することになります。また、複数のシステムを導入する場合は、それらをどう組み合わせてデータを繋ぐかも合わせて考える必要があります。
なお、実際に現場で使われるシステムになるかどうかは、現在の業務の流れにうまくはまるかどうかにも左右されます。選定の段階から現場スタッフの意見を聞いておくことで、導入後のギャップを減らしやすくなります。
選定のポイントや連携の考え方については後述します。
導入とスタッフへの展開
新しいシステムの導入時には、スタッフへの説明と習熟期間の確保が必要です。
システムの切り替えは、スタッフにとって慣れた操作や手順を変えることを意味します。業務を覚え直す負荷・操作に慣れるまでの不安・既存の進め方との違いへの戸惑いなど、変化に伴うコストは小さくありません。こうした現場への影響を軽視すると、システムを入れても使われなかったり、ミスが増える時期が長引いたりするリスクがあります。
そのため、一度にすべてを切り替えるよりも、受付・薬歴・在庫など領域ごとに段階的に展開し、実際の業務で使いながら定着させていく進め方が現場への負荷を抑えやすいです。どの順番で導入するかは、棚卸しで明らかになった優先課題とあわせて検討することが重要です。
ベンダーが提供する研修・マニュアル・導入サポートの内容も、システム選定の際に確認しておくと安心です。
運用定着のサイクルをつくる
導入後は、システムが実際に使われているか・業務改善につながっているかを確認するサイクルをつくることが重要です。スタッフが使い方を把握できているか、入力内容が適切に管理されているか、想定していなかった操作上の問題がないかを定期的に確認し、必要に応じてフローや設定を見直すことが運用定着につながります。
業務システムの選び方と組み合わせ方
選定で確認しておきたいポイント
ここでは具体的な製品の紹介は行いませんが、選定の際に押さえておきたいポイントを整理します。
業務カバー範囲と既存システムとの連携可否
自社の業務フローのどこをカバーするか、すでに導入しているシステムとデータを連携できるかを確認することが重要です。
連携できない場合、システムからシステムへの手動での転記作業が発生し、入力ミスや手間の増加につながりやすくなります。
新しいシステムを入れることで、かえって作業が増えてしまうケースもあるため、連携可否は選定の早い段階で確認しておくことが望ましいです。
クラウド型かオンプレミス型か
クラウド型SaaSは初期費用を抑えてスタートしやすく、アップデートも自動で行われます。オンプレミス型(自社サーバーへの設置型)はカスタマイズの自由度が高い反面、保守コストが継続的にかかります。
薬局の規模・IT体制・将来の拡張計画に合わせて選ぶことが望ましいです。
なお、調剤薬局は患者の個人情報(要配慮個人情報)を扱うため、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠したセキュリティ対策(VPNの構築やアクセス権限の厳格化など)を前提とした設計が求められます。
クラウド・オンプレミスのいずれを選ぶ場合でも、この点を踏まえた選定が必要です。
電子処方箋への対応状況
電子処方箋(医療機関から処方データをデジタルで受け取る仕組み)の普及が進んでおり、今後の制度対応や業務効率化の観点からも対応状況を確認しておくことが重要です。制度の詳細や最新の動向については、厚生労働省の情報を確認することをお勧めします。
サポート体制とベンダーの安定性
導入後のサポート対応・障害時の復旧体制・問い合わせ窓口の対応時間なども選定の判断材料になります。薬局業務は患者への影響があるため、トラブル時に迅速に対応してもらえるかどうかは重要な確認ポイントです。
なお、電子薬歴・AI監査(画像認識などを活用して調剤内容や取り揃え状況の確認を支援する仕組み)・在庫管理・レセプト対応・服薬フォローなど、領域ごとに専用製品が存在しています。すべてを一度に入れ替えるよりも、課題が大きい領域から段階的に導入することがよいでしょう。
複数SaaSをどう連携させるかの設計
個別のSaaSを導入するだけでなく、それらをどう繋ぐかの設計が重要です。システムが連携されていないと、二重入力・転記ミス・確認作業の増加が発生しやすくなります。
受付・処方入力・薬歴・在庫・会計・服薬フォロー・経営分析といった領域のシステムがデータを共有しながら動く基盤を設計することで、業務の分断を減らすことが期待できます。
SaaSによってはAPI連携(アプリケーション間でデータをやり取りする仕組み)の仕様を公開しており、別システムとのデータ連携が可能なものもありますが、連携の可否や仕様はシステムによって異なるため、選定段階から確認しておくことが重要です。
特に、APIが公開されていてもデータの「読み込み(Read)」は可能でも「書き込み(Write)」は制限されているケースもあり、想定していた連携が実現できない場合があります。
また、ベンダー側にAPI利用料(初期費用・月額費用)が発生することもあるため、APIの有無だけでなく、どこまで双方向にデータをやり取りできるかの仕様と、接続にかかるコストもあわせて確認することが望ましいでしょう。

導入後の運用体制をどう整えるか
システムを入れただけでは業務改善は起きにくく、運用体制を整えることが重要になります。
データ管理・更新のルールと手順を整備する
電子薬歴・在庫データ・患者情報などのデータは、誰がどのタイミングで入力・更新・確認するかをルールとして整備しておくことが重要です。担当者個人の判断や記憶に依存する運用では、担当者が変わったときにデータの鮮度が落ちたり、手順が引き継がれなかったりするリスクがあります。
複数スタッフが同じシステムを操作する場合は、入力ルールの統一と権限の設定をあわせて文書化しておくことで、特定のスタッフに依存しない運用体制を作りやすくなります。
スタッフの役割分担と習熟のサポート
DX化によって業務フローが変わった場合、システムが自動で行う部分と人が判断・確認する部分を整理しておくことが重要です。この境界が曖昧なままだと、「システムがやってくれると思っていた」「誰かが確認していると思っていた」というミスが起きやすくなります。
たとえば、AI監査を導入した場合でも最終確認の責任はどこにあるか、AI薬歴(音声認識や生成AIを活用して薬歴作成を支援する仕組み)の内容をどのタイミングで誰が確認するか、といった点をあらかじめ決めておくことが運用上のトラブルを減らすことにつながります。
新しいシステムへの習熟度にはスタッフ間で差が出やすいため、操作に不安のあるスタッフへのフォロー体制を事前に考えておくことも重要です。
定期的な振り返りと改善のサイクル
運用開始後は、月次・四半期ごとに業務の改善状況を振り返るサイクルを設けることが望ましいです。
「導入前と比べて薬歴記録にかかる時間は変わったか」「二重入力はなくなったか」「スタッフの残業時間に変化はあるか」といった視点で確認することで、次の改善ポイントが見つけやすくなります。
また、SaaSのアップデート情報や新機能のリリースを定期的に確認し、活用できる機能を取り入れていく姿勢も運用品質の維持につながります。
既存SaaSと標準的な進め方では対応しきれないケース
SaaS選定・連携設計・運用体制の整備が進んでも、既製品の標準機能だけでは対応しきれない課題が残るケースがあります。
SaaSは多くのユーザーに共通する標準機能を安価に提供する仕組み(マルチテナント)であるため、SaaSでは個別企業向けの大幅なカスタマイズに対応していないことが多く、「要望を出せばアップデートで対応してもらえる」と期待するよりも、外付けの追加開発で補完する方が現実的な選択肢になるケースもあります。以下は代表的な例です。
複数店舗をまたぐ独自フローの管理
クラウド型の薬局SaaSには、複数店舗の在庫や薬歴を一元管理できる機能を標準で持つものもあります。チェーン薬局でのDXを検討する際は、まず導入予定のSaaSが複数店舗管理に対応しているかを確認することが先決です。
一方で、SaaSの標準的な複数店舗機能では自社の管理体制や業務フローをカバーしきれないケースもあります。
たとえば、自社独自の集計指標やレポート形式・複数のSaaSにまたがるデータの統合表示・本部と各店舗間の独自な承認フローなどが該当します。こうした場合に、既存SaaSのAPIからデータを取得して本部用の管理画面やダッシュボードを別システムとして構築するアプローチが選択肢になります。SaaSはそのまま各店舗の業務で使い続けながら、その上に独自の管理レイヤーを乗せるイメージです。
SaaSにない連携部分の実装
使用しているSaaSが特定のシステムとのAPI連携に対応していない場合、連携開発によってデータを自動で受け渡す仕組みを構築できる可能性があります。調剤システム間の連携では、NSIPS(薬局向けシステム間のデータ連携を目的とした標準仕様)が広く利用されています。一方で、NSIPSでカバーされない独自データの統合や、複数のSaaSにまたがるデータの一元管理については、別途連携開発で対応するケースがあります。
たとえば、調剤ロボットのデータを電子薬歴システムへ自動連携する・レセプトデータをBI(経営分析ツール)へ取り込む・地域医療連携システムや電子処方箋関連システムとの情報連携を行うといった対応が該当します。
自社要件に合わせた経営分析・レポーティング
既存のBIツールや薬歴システムの標準レポートでは、自社の管理指標に合った集計・可視化が難しいケースもあります。自社データを活用したダッシュボードや分析ツールの開発によって、より実態に即した経営管理が可能になる場合があります。
独自サービスや運用フローに合わせた追加開発
上記以外にも、薬局ごとに独自のサービスや運用フローがある場合、既存SaaSの標準機能ではその部分をカバーできないことがあります。SaaSを入れ替えるほどではないが、特定の業務だけ仕組みが足りないという状況に対して、その部分だけをピンポイントで開発するアプローチが有効なケースがあります。
既存SaaSの使い勝手や運用を大きく変えずに、不足している機能や連携を補う形での開発が現実的な選択肢になります。
調剤薬局DXの導入・運用設計・追加開発のご相談はこちら
株式会社SPでは、調剤薬局向けの業務システム受託開発を支援しています。既存SaaSへのAPI連携・追加機能開発など、状況や規模に応じた開発に対応しています。
「SaaSを導入したが業務の分断が残っている」「自社フローに合うシステムが見つからない」「複数のシステムを繋いで一元管理したい」という段階からご相談いただけます。